バキュームカー
し尿の汲み取りが,手汲みからバキュームカーに変った頃の話
この頃のポンプ車には,2,000Lまで入るタンクを積んでいたが,タンクの上部に空気がたまるため,通常は1,800L位までしか入らない。一度に多くを運ぼうとするので,知恵を働かせて,2,000Lまで入れるようにテクニックを駆使する。どうするかというと,一人がホースの先を押え,もう一人の運転手が上部に貯まった空気とし尿を便槽に少しはきだし,その後一気に吸込む。詳しくは分からないが,そのはきだし方にテクニックを要するのだそうである。
ある日も,そのようにギリギリまで吸込もうとし,し尿を便槽の中に戻したが,相棒が小用のため現場を離れていたのでホースの先をおさえる人がいなかった。そのため,ホースの先が暴れ,抑える人がいないため,なんと台所の中に入ってしまったのである。それを知らない運転手が相棒からの合図がないので,おかしいと思いながらも,何度かその作業を続けたから大変。台所の炊飯器から畳やテレビに至るまで,し尿が飛び散ってしまったのである。慌てて戻った相棒がクソまみれになってホースを抑えている姿に気づいて,作業をストップしたのだが,後の祭りである。
家の人に散々怒られ「消毒して,汚れたものは弁償してくれ!」と言われる始末である。
市民からすれば当然の要求である。仕方なく,汚れたものは個人で弁償し,部屋中を綺麗に掃除して,清掃局の職員が白衣を着て保健所の職員のふりをして,クレゾールをまいてようやく許してもらうことができた。